「遊歩道を作ろう・復旧させよう」
江戸時代は「歩く」文化でした。
五街道に脇街道、参勤交代、お伊勢参り、熊野詣など、人々は街道を歩き、峠を越え、見聞を広め、人情に触れてきました。
そして現代、鉄道網と道路網の発達により街から街へ「歩く」、峠を越えて「歩く」文化は絶えて久しいです。
どれほどに交通が発達し、ネットワークが整備されようとも、やはり一人一人の人間は感情を持った生身そのものに他なりません。
人には見知らぬ土地を訪れたときの旅情があります。
見知らぬ土地には温かい人情があってほしいものです。
そうです、きっと今の私たちに必要なのは、高速鉄道網や格安航空券よりも、低くて穏やかなあの峠を越える心地よい遊歩道ではないでしょうか。
「季節感に触れながら穏やかな気持ちで歩ける道」を私たちは作っています。
それは「しっかり整備された遊歩道」とも「あまり整備されない登山道」とも異なります。
「歩きやすい遊歩道」と「歩きたくなる遊歩道」は必ずしも同じではないのです。
「歩きやすさ」を求めるあまり、金属製の階段ばかりになってしまえば味気がなくなります。
木材の板敷の歩道は、落ち葉が堆積し苔が生え、5年程度で使用不能になってしまいます。
私たちはできるだけ金属製の人工物に頼らず、現場にある石を可能な限り使用します。
現場で石を割り、それを積みます。
50年後100年後に「苔むしていい感じ」になるような姿を心に描いています。
融雪水や集中豪雨などの強い自然条件に耐え得るには、人の足の動きと水の流れを的確に読まねばなりません。
百年続く遊歩道を目指して、歩く人が踏みしめるその一歩一歩の質感まで考えながら、今日も石を組んでいます。